イランの核合意離脱

2018年5月トランプ政権はイランの核合意から一方的に離脱し、イランへの制裁措置に踏み切った。イラン核合意というのは、2015年7月に結び、国連の安全保障理事会で決議された。合意内容は、イランが濃縮ウランや遠心分離機を大幅に削減し、これを国際原子力機関IAEAが確認した後、見返りとして金融制裁や原油取引制限などを緩和するというものであった。 今年、2月23日の国際原子力機関IAEAは、イランが製造した一部のウランの濃縮度は20%に達しているという報告書をまとめた。核兵器製造への道が進められている。核合意の当事国は、英独仏中露と米である。国連の常任理事国プラスドイツである。第二次世界大戦の連合国=戦勝国である。いずれも核保有を正式に国連で認められている国々である。国連で核を独占しようという意図があるが、世界に核は拡散してきているのが現状である。現在では、イスラエル、インド、パキスタン、南アフリカ、北朝鮮など国連の規約を外れた保有国が広がっている。国連に核兵器を制御する能力はすでになくなっているので、イラン側からすれば、イランだけ不当な扱いを受けているという不公平感につながっている。  イランは、アメリカ、イスラエル、多くのアラブ諸国と対立関係にある。アラブ諸国はオスマン帝国の流れをくむイスラムの国家が多く、宗派的にはスンニ派である。コーランはアラビア語で書かれ、アラビア語を話すことが重要な事柄であるが、イランはペルシャ語の国である。シーア派の人が、ひげを蓄え、服装を制限し、ブレスレットなどのしきたりを重視するのは、スンニ派の人からするとき、シーア派の人が信仰をひげを蓄えるといった「形」として示すものと見ている。  イランの核に対する脅威は、アメリカとイスラエルが強く持っていた。また、アラブ諸国もイラン・イラク戦争にみられるように敵国としての緊張関係にある。アメリカは、イラン革命防衛隊の「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を2020年1月3日に殺害している。また、2020年11月27日に核開発を担ってきた科学者、モフセン・ファクリザデ氏が乗った車を襲撃し核科学者4人とともに殺害している。イスラエルの指示によるものといわれている。国際的な戦争に発展しかねない事件である。しかし、イラン側が戦争を仕掛けたとき、アメリカの軍事力を見ると悲惨な結末になることが予想される。  中東地域の政治情勢にとっていくつか考慮しておくべきことがある。 1 イラン革命の意味 2 アラブの春の意義 3 武器輸出の問題 4 石油の持つ意味 などである。これらの事柄の理解の中で、今後の中東地域の勢力関係が展開してゆく。むやみに、先進国が自国の利害を絡めて干渉したり、世界の警察という外交政策をとることは、事態を悪化させるだけの結果になりかねない。 まず、第一に、イラン革命は1979年に起こったのであるが、ホーメイニー氏が政権を樹立した。その原理は、 1 近代化・西洋化の否定 2 イスラーム統治体制 3 シーア派による政権 4 反米路線 等である。イスラム共和制の樹立ともいえるが、イスラム法による統治であり、西洋近代の共和制とは大きく異なる。シーア派による政権という側面はイスラム内部の対立を克服できない。オスマン帝国の場合、イスラムのスルタンの権威がアラビア語のコーランの教義として統治に結びついていた。これはイラン国内の問題とすべきである。それがヒズボラのような国際的な勢力となるとき、武装蜂起は他の諸国との対立に発展する可能性がある。さらに、アメリカ、イスラエル、アラブ諸国との対立は先鋭化させているというイラン革命以後の歴史となっている。 第二のアラブの春は、近代的民主主義につながる要素を持っていたと言えるが、すべて民衆が勝利をおさめながら成功していない。シリアのアサド政権、エジプトの軍事政権などすべてイスラムの原理に基づく政治支配とあいまって、民主主義的国家体制につながる政権は実現していない。 第三に、武器輸出に関して、アメリカとロシアの関与が混乱を増幅させている。武器輸出の禁止ということが国際秩序のかなめになっていくことになると思われる。世界中の武器産業の世界的管理の機構を構築するという必要性が、世界の新たな枠組みとして考えられなければならない。(拙著『戦争廃絶』ふくろう出版 p.246-p.255参照) 第四に、第一次世界大戦以来、石油は飛行機や戦車を動かく燃料であるという点で、国家の生死を左右する商品であった。中東の国境は石油問題の利害が絡んで世界地図を作ってきた。イギリス、フランス、オランダに始まり、続いてアメリカとソ連が国際政治問題に絡んできた。現在ではさらに中国の進出がある。その後、戦争に欠くべからざる重要性を持つだけでなく、各国の経済発展の要となってきた。自動車産業のみならず、発電にとっても産業の要に位置してきた。現在の経済情勢では日本の石油輸入の利害も他人ごとではない。しかし、2020年代の現在、脱炭素、ハイブリッドや電気の自動車、シェール石油、メタンハイドレード、その他風力・太陽光などの自然エネルギーなど、脱石油の産業構造が生まれ始めている。中東の地図を根本から揺るがす事態に進んでいく可能性が高い。脱石油とアラブと中東諸国の産業と国家の形お変質の時期が訪れようとしている。

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