機能しない国連と強国の外交政策
グローバル化が叫ばれる中、世界は、依然、国家でできている。グローバル化は各国の外交政策の蚊帳の外にあるといえるほどである。ミャンマーの軍のクーデター以来、市民のデモは弾圧され、3月7日現在で50人以上が殺戮され、国連の警告はなしに等しい。コロナ危機に見舞われている世界の情勢の中で、世界保健機構WHOの有効性が疑問視されている。貿易に関しても、WTOは機能不全を起こし、TPP、EPA、RCEPと多くのFTAが結ばれている。国家間の通商条約が国際的な協定を超えて進んでいる。世界の民主主義に対して、国家の強権が猛威を振るっている。アメリカ、中国、ロシアの国家主義は、「帝国主義」という呼び方ではなく、「覇権国家」という把握のされ方に変化している。植民地化ではなくとも世界に自国の論理を浸透させようとしている。
通貨問題は影を潜めているが決して安定を迎えているわけではない。IMF体制かかつてのアメリカの支配という色を薄くしているが、アメリカドル支配の世界経済にユーロと人民元がその地位を大きくしようとしている。世界の援助に関しては、経済援助が軍事援助に比べて大幅に比重を大きくしてきた。しかし、その経済援助の陰に、新たな支配の意図をみることができる。
このようなグローバル化の国家関係の中で、国連に関する疑問が大きい。
国連の不効率はアメリカの国内では、常識化してきており、国際連合は、無駄と不効率が目立ち始めているのではないだろうか。真剣な見直しが必要な時期が来ている。巨大な予算を使いながら、無意味な仕事をしている悪しき官僚主義に陥っているのではないだろうか、そのような疑念が提起され始めている。国連不要論につながっていっても不思議ではない。不要の方向に本格的な舵が切られる時、世界の新たな軍事の統制や抑制のシステムと機関が考えられる必要がある。
世界の軍事環境を見ておこう。国連の機能は、人権や環境福利も唱えられるが、なんといっても国連の使命は軍事的平和にある。軍事機能と世界平和を外して国連の存在意義は無に等しい。
海警法が中国で施行された。アメリカの国防総省は、今年、2月23日に、領海侵入に対する警戒を流している。同時にアメリカは日本の尖閣に関して「日本の主権を支持する」という声明を出している。中国海警局は武器を使いやすくしている。アメリカは太平洋軍を2018年5月に「インド太平洋軍」に変更し、日本や韓国に駐留する米軍を統括する役割を持たせている。同時に、NATO諸国にロシアと並んで中国を対象国にしている。アメリカは中国に対して、①長距離ミサイル開発にとどまらず、②一帯一路の一環でのインフラ取得、③5Gでのスパイ疑惑などを視野に入れている。フランスは攻撃型原子力潜水艦、イギリスは空母「クイーン・エリザベス」、ドイツはフリゲート艦を南シナ海やインド洋に送る見通しになっている。世界の軍事関係は、刻々と同盟関係を通じて行われているので、国連は蚊帳の外に思える。ただ、同盟というのは戦争をもたらすものである。
先月、2月のアメリカのシリア空爆に対し、英、仏は支持を表明したのに対し、日本は、26日、茂木外務大臣は「注視している」と述べたにとどめている。2020年1月のソレイマニ司令官の殺害に関しても、日本は支持を表明していない。イランとの友好を模索し続けている。アメリカ、ロシア、中国の3国の力関係を軸に、世界の軍事=平和秩序が模索されている。その他の諸国はこの3つの軸を考慮しながら、外交政策を立てている。
国連の検討と合わせて世界の協力関係、世界組織の現状から吟味しておく必要がある。
中国とアメリカの軍事的緊張関係は、極めて危険の域に達していると言ってよい。「レッド・ライン」という言葉が使われる。2010年ごろから中国は「核心的利益」という言葉を多用するようになっている。レッド・ラインと同義で使っている。香港や台湾に関し習近平は、核心的利益という言葉を使ってこれを超えれば武力衝突になるという警告を発している。習近平の国家の指導理念の中には、中華思想、「中国の夢」という覇権主義につながるイデオロギーが根幹の位置を占めている。アメリカも中国がフィリピンの南シナ海の要衝、スカボロー礁を支配した時、軍事施設が建てられれば米国は行動をとると警告した。レッド・ラインを提示した形である。その結果、中国は埋め立てをしていない。武力衝突は避けるべきと考えている。
以上のような軍事関係と並んで世界を取り巻く国際関係の動きがある。
国際会議が絶えず行われている。国家の側からの対話の動きがある。1975年以来のG5に始まる動きがある。先進国間でのたえざる対話の姿勢である。G7、G8、G20と主要強国ができてきた。その背景には世界の秩序を世界の有力国World Powersが担うという姿勢である。
また、通商・貿易は大きな国際関係の課題である。通貨体制がIMFの崩壊で崩れて、流動性と不安定の可能性を孕んでいる。援助に関しても、マーシャルプランに始まり、ケネディの援助政策やODA,世界銀行やアジア投資銀行など、様々な援助が外交の手段となっている。自由貿易体制の世界を作ることは、GATTを受け継いだ、WTOの課題である。WTO以外に関税に関して各国自身が調整しようという動きである。関税問題を主とする通商交渉に加えて、人材や環境での合意を目指そうとする。それを協定規約で統率するという姿勢である。TPP、RCEP、EPA、FTAなどの交渉と協約締結である。ベースとしては関税の引き下げに伴う自由貿易の推進があるので、元来は、WTOで扱うべき事柄である。国連の機能不全と呼応するように、WTOも機能不全に陥っている。世界機関ではなく、国家主導の中で歩調を合わせるという構造にあり、そして国益の調整に終始していては世界機関としての機能が失われかねない。歩調を合わせることができる国々の間で締結しようとする模索が世界の現状だと言える。さらに、TPP、EPA、RCEPなど、多国間の協約がむつかしい時は、二国間でFTAとして進めるという方針になる。世界を見据えたビジョンをWTOが作成しなければならない。世界機関が、世界を見る力を持たず、国家が主導した外交が世界機関の弱体化、機能不全をもたらしている。
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