脱炭素の課題

 2015年の「パリ協定」締結以来、世界は地球温暖化対策を課題としてきている感がある。ほとんどの先進国は温暖化防止対策に舵を切っている。日本も、昨年10月、菅義偉首相は、2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにすると宣言した。バイデン政権も同じく2050年までに実質ゼロを目指している。EUを始め韓国なども2050年までに、中国も2060年に排出ゼロを目標に打ち出している。しかし、一方現状は進んでいない。世界のC0²排出量は400億トンに近づき増え続けている。ガスや石油の輸出に依存するロシアのプーチン氏は、化石燃料の利用停止は、「これからの30~50年は非現実的だ」とする。その反対に、他方ではロシアもクリーンな次世代のエネルギー開発に力を入れ始めている。水素エネルギーの輸出に乗り出そうとしている。 EUが脱炭素に移行しているので、石油に関する関税などでの圧力が強くなっている。世界のエネルギー消費も増え続け、石炭から石油が中心に推移してきた歴史を、人類はいかに転換を図れるのだろうか。政府と産業界と技術開発の三者が呼応して進める必要がある。各国政府は、2030年を一つの中間点として目標を設定している。310社の企業がそれに対応して、バイデン大統領に対して温暖化ガスの排出を半減するという書簡を送っている。欧州連合は30年に1990年比で55%減らす目標を掲げている。 原子力はそれに代わるエネルギーとして登場したが、その危険性は放射性物質の処理ができないことなどで、エネルギー源としては歴史の舞台から姿を消す日は近い。2000年ごろにはシェールガスやシェールオイルが有力なエネルギー資源として登場してきた。そして、続いてメタンハイドレードが新しいエネルギー源として期待されていた。シェールオイルもコストの低減に限界があり、当面は普及し続ける。そして、2020年代半ばには伸びに限界が来るとの予測が強い。しかしこれらのエネルギー源も温暖化の観点からは消滅の運命にあると言わなければならない。 太陽光、水素、風力が、増え続ける電力需要に対する新たなエネルギーとして登場している。バイデン政権は洋上風力発電の拡大を目指すと発表している。2030年までに年間1000万世帯の電力供給を目指している。30ギガワット(300憶ワット)の発電能力で、7800万トンのC0²を削減するという計画である。また、C0² を減らすという点では、人口光合成や農地の自然利用も注目されるべきだが、開発・実用化にまだ時間がかかりそうである。住友商事は、農地改良でC0²を減らすことを打ち出している。土壌改良で森林保全や植林にC0²の吸収ができると試算している。住友商事は排出枠の販売事業とセットにすることで利益を模索している。   石油・石炭・LNGガスなどの化石燃料の用途は、電力と自動車以外に製鉄やその他工業的な用途がある。これらすべてを風力・太陽光などに転嫁するのは極めて難しい。技術的な進歩が不可欠である。アンモニア燃料を活用した発電技術も開発中である。水素の利用も進められていくことになる。いずれの分野でも日本は世界に一歩進んでいる。 丸紅は、2013年にロシア国営石油最大手のロスネエンと提携し、極東ロシアで液化天然ガス基地プロジェクトに参画し、2019年から生産を始めるという計画を立てていた。総事業費は当初1兆5000億円とみこまれていた。2018年10月、三菱商事は、ロイヤルダッチジェルや韓国企業と共同でカナダに液化天然ガスプラントを建設すると発表した。 脱炭素に向けた国際協力が進んでいる。EUは、日本政府とアライアンスを組むことを打診している。インドはC0²排出量を、2040年を超えても増加させると予測されている。インドは石炭への依存が大きい。日本、アメリカ、EUが、安価な蓄電池を供給することが対策となりえる。  中国はいち早くEVへのシフトを決定している。その意図は、原油輸入を減らし自動車市場に食い込むことにある。中国政府は内燃機関で外国に追いつけないと見て、一足飛びに電気自動車への道を選んだ、とみるべきである。また、低開発国でのハイブリッド車の普及はまだまだ進んでいない。EVはさらに未来の話である。アジアやアフリカ諸国では、中古のガソリン自動車が普及しているくらいなので、ガソリンの需要は世界的には下支えされる。    ガソリン需要が変化すると石油化学工業にも大きな変化がもたらされる。石油化学産業の原料となるナフサの価格が、一時的にガソリン価格よりも高くなるという異変が生じた。元来、ガソリン価格はナフサの価格より1バレル当たりで10~20ドル高い。海洋プラスチック問題で化学産業にも資源問題の影響が考えられるが、ガソリンなどの燃料ほど急激ではない。現在では、ナフサの値上がりで、価格差は10ドル未満となっている。   石油化学、トラックなどの輸送、航空機などの石油需要はまだまだ伸びると予想すべきであろう。その点では、排出ゼロは、「実質」と付け加えるように、他のC0² を減らす技術と合わせた目標であると言わなければならない。  バイデン政権は中国と鋭く対立している。脱炭素の政策では、両国は協力する姿勢をとっている。ただ、現在の中国は冷戦時代のソ連とは異なる。世界経済に深く組み込まれている。鄧小平の目立たぬように経済発展して力を蓄えるという路線が、グローバル化の時代には、世界経済のチェーンの中に深く組み込まれるという結果となっている。レアーアースなどの生産で、アメリカは慌てて自国開発を急いでいる。中国は半導体などで自国開発を急いでいるし、台湾を自国領土と主張することになっている。今こそ、平和の協定を結んで世界政治体制の転換を図るべき時であるが、どの国にもそのような方向性を考えていないようである。日本政府がそのような方向性を視野に入れるしか、日本には道はないのである。4月18日のバイデン―菅会談では、日本は極端にアメリカの意向に組みした。安保にこだわるよりも、世界共通の課題を議論するイニシアティブをとりたいものである。脱炭素の地球環境と並んで、人権の世界的課題も、国家間のルールの策定も、国際法の尊重の論理も議論に載せてゆく努力が必要なのではないだろうか。明確な世界の平和秩序の立場を打ち出すべき時が来ている。

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