PVファンドの時代到来か?

東芝の買収提案が行われた。イギリス投資ファンドのCVCキャピタルパートナーズの買収提案である。CVCの提案には株式の非公開化が含まれている。アクティビストファンドとの対立という背景がある。株式会社形態は20世紀の企業の形であった。しかし、株式会社形態が法人資本主義を生み出し、国家独占資本主義を生み出していたという時代が1980年代から90年代にかけて崩れていった。私はそれを「金融革命」と名づけた。そして金融革命は進展し、様々な金融膨張や金融危機を生んでいった。1970年代以降リーマンショックに至る時代の変化であった。そして、2008年以降、新たな変化が生じていると言えそうである。ヘッジファンドや投資銀行が主導した金融革命は、主役の交代の時期を迎えた。様々なファンドの活躍が、この時代の新しい特徴と言えそうである。 株式上場企業の公開化がM&Aをめぐって激しい動きをもたらしてきた。企業買収には様々な意図がある。技術を手に入れるための買収、企業規模をおきくし市場支配力を高めるための買収、単に株価尚値上がりで利潤の獲得を金融操作で習得するための買収などがある。そして、プライベートエクイティファンドの買収は、基本的には、企業を買い取り、経営を刷新し企業価値を上げたうえで売却するというものである。そしてこのような活動はリターン大きさと生産性で大きな成果につながっている。 企業買収は大きく分けると経営を目的とするものとキャピタルゲインを目的とするものに分けることができる。前者には、PVファンドによるM&A、企業による経営戦略のために、株式を通じて買収するものがある。また、株式を手に入れることで株価を引き上げる会計操作や株価上昇によるキャピタルゲインを追求する買収ファンドやアクティビストファンドなどのM&Aなどがある。 最先端の巨大企業は財閥や企業グループによって社会体制を築いていた時代から、企業間のM&A、さらにファンドとの関係が不可欠の時代となっている。 東芝は、日本の経済の根幹に関わる巨大企業であった。2015年に不正会計問題が発覚し、アメリカでの原理力子会社の巨額損失などで窮地に追い込まれていた。しかし、東芝の技術と資産価値は大きな価値がある。半導体企業である東芝メモリーは、キオクシアホールディングスとなり、売却している。原子力事業も抱えている。究極の暗号技術といわれる「量子暗号通信」でも世界をリードする技術を持つ。国家を左右する会社の株式をめぐる動揺は国家危機につながるという側面もある。 製鉄のミタルも、アマゾンドットコムも企業買収を通じて世界の巨大企業となった。巨大企業の規模は、従業員数でみても20世紀の独占企業よりもけた違いに大きくなっている。2017年9月、インドのタタ製鉄はドイツのテッセングループとの統合を行い,4,000人の人員削減などで衰退する鉄鋼業での生き残りを模索している。2017年11月、KKRは半導体で大きく伸びている日立国際にTOBを仕掛けている。その背景にはアクティビストファンドのエリオットの動きがある。 企業の巨大化はリーマンショック以降の顕著な動きでもある。300万近い従業員を抱えるウォルマートのような企業も生まれている。 一方、バークシャーハザウエイは、収益が世界の5位以内に入っている。物を作り生産を生み出して社会を豊かにする企業ではない。株の値上がりによるキャピタルゲインの獲得が主な経済活動である。その点ではやり方は違うが、アクティビストファンドと企業活動の性格は近い。 規模の巨大化、利益の金融だけでの極大化などの動きがある。特に、投資銀行とヘッジファンドによるデリバティブをめぐっての資産膨張が金融危機と世界経済の破綻をもたらしたのが、リーマンショックであった。それ以後、金融の世界はさらに大きな変化を迎え、危機の潜在的可能性は膨張し続けている。 デリバティブによる金融資産の膨張は、極度の資産の巨大化をもたらした。投資銀行とヘッジファンドが活躍している。それは、ファンドによる経営に至ってもう一段買い進んだともいえる。このような株や金融商品などの膨張は、格差社会を生み出す金融の膨張の一端を担っている。格差の拡大は金融で生み出されている。(拙著『金融革命』創元社刊、p168~p.172を参照されたい) プライベートエクイティファンドが広がりを見せている。かつては、カーライル、ブラックストーン、KKRが巨大プライベートエクイティファンドであった。今は、数多くのPVファンドが生まれている。スエーデンに本拠を置くプライベートエクイティファンドのEQTは、ヘルスケアや情報通信、サービス業などへの投資を計画し、国内ファンドの日本産業パートナーズと協力する。約20カ国に事務所を構えアジア全域への進出をもくろんでいる。香港に本拠を置くPAGは不動産投資から、PE(プライベートエクイティ)部門への投資に本格参入する。アメリカ大手アポロ・グローバル・マネジメントも日本事務所を開設した。フランスLVMHモエへネシー・ルイヴィトン系のLキャピタルも日本法人を立ち上げた。 企業のファンドのかかわりに関しては、さらに新しい領域を生み出している。「ユニコーン」や「スタートアップ企業」が発生している。これは、リーマンショック以後の最近の出来事である。グローバルな投資ファンドが日本でのスタートアップ企業への投資を増やしている。昨年、米ベインキャピタルは決済サービスのヘイに投資した。ヘイは予約システムのキュービックに投資を決めている。ベインキャピタルは取締役をヘイに派遣するという動きを取り、経営に携わり収益を確実に上げるというPEファンドのやり方である。一方、KKRなどはスタートアップではなく「レイトステージ企業」への投資を手掛けている。すでに実績がある分、投資リスクが少ない。株式未公開企業への投資が近年の大きな動きといえる。さらに、クラウドファンディングもこの動きの一翼を担うものとして考慮しておく必要がある。 ソフトバンクは、10兆円ファンドを作ってスタートアップ企業に出資し、そのリターンで巨大利益を上げるという戦略をとっていた。スタートアップ企業は、3年以内に2倍以上の利益を生みだすことがある。リターンはデリバティブ取引より大きいのである。それは企画が優れているという点にあるとは言い切れない。企画が技術や生産などに還元できない場合も多い。このような企業投資の活動の中で、PVファンドへの運動資金の流れはリーマンショック以降の傾向といえる。 PEファンドのアジア企業への投資が増えている。KKRのPEファンド(アジアファンドⅣ)は131億ドル(約1兆4000億円)を260の投資家から調達して投資している。優秀なPEファンドはリターンが大きいので投資資金を集めることができる。カリフォルニア州職員退職金基金やミネソタ州投資委員会などの機関投資家が資金を拠出している。 ブラックストーングループは、日本の個人富裕層からの資金募集を今年から始める。PVファンドの運用資金は年金基金や金融機関などの機関投資家であった。これまで最低投資額が数億円で運用期間が10年間固定というのが資金拠出の条件なので、個人が資金を投資できない理由であった。ブラックストーングループは、アメリカの個人投資家に対し、不動産投資信託(REIT)の活用などで資金を取り込んでいる。日本の富裕層は純金融資産が5億円以上ある富裕層が8万世帯を超えている。ブラックストーンは日本での不動産への累計投資で1兆円を超えている。PVファンドのリターンの大きさからして、金融がもたらす格差はますます拡大すると言わなければならない。 世界のM&Aがリーマンショック以降、拡大し続けている。ヨーロッパでの債務危機によって収益の悪化した業種でもM&Aが増えている。反対に携帯通信や製薬業界などの有力業種でも新しい展開を視野に入れた大型買収が2014年ごろには進んでいる。今後の資本の発展傾向は、ファンドの動きと一体化していると言えそうである。

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