香港の民主主義
世界では、人々の民主化の動きと国家の強権の対立が顕著になっている。中国は、強権を推し進める習近平政権の姿勢が強い。昨年、6月30日に「香港国家安全維持法案」と「香港国家安全維持法」を決定した。7月1日より施行されている。それによって多くの民主化運動を行っていた人たちが拘束された。香港は不思議な制度を持った特別行政区であった。1840年からのアヘン戦争でイギリスの植民地となっていたものが返還されるにあたって、「一国二制度」という言葉のもとに特別行政区となった。香港は、共産主義の中国か民主主義の資本主義社会なのか、ということがはっきりしない制度であった。1997年6月30日のことである。この制度の下、7月1日からイギリスから中国に返還され、中国の特別行政区となった。その間、香港を訪れると、資本主義国と変わらないという印象があった。香港は一種の中国の抜け穴として機能してきたと言えなくもない。そこで育った若い人々には、自由は当たり前であった。それが今回の国家安全維持法で自由ではなくなった。選挙も民主主義的な選挙とは言えない状態になった。
「いったいなぜ?」という疑問が起こる。原因は二つである。
1 習近平政権の思想である。強烈な中華思想のもとに「強国」めざすという習氏の思想が色濃く出ている。強い中国は外交、経済、軍事のあらゆる側面にこれまで以上に強く反映されている。中華思想に基ずく一つの中国である。台湾と香港と中国という3つの中国であってはならないという考え方である。
2 香港の経済の弱体化である。香港ドルはレートを下げ続けた。金融センターとしての位置も弱体化した。深圳の発展とともに、香港に頼る必然性は薄れた。確かに香港へ進出した外国の企業は不安になり撤退するが、中国側からするとき、もはや外資に発展の梃になってもらう必要は薄くなってきている。
中国にとってより大きな課題は、台湾である。そして内部矛盾を爆発させる国内情勢である。台湾は、中国が認めなくとも、国家であることはほぼ国際的に認められている。その国際世論に中国は圧力をかけ続けている。国際連合は、台湾を追い出している。国連が正当な認識を持っていないといったほうがいい。台湾を認めている国も30ヵ国ほどしかない。
台湾海峡をはさむ中国と台湾の関係を両岸関係という。そこをアメリカが守っている。しかし中国との緊張関係にあるといえる。サプラトリー諸島に中国が実効支配を重ねるために軍事基地を建設している。爆発・戦争の発火点となる可能性を持っている。その延長線上に両岸関係もある。しかし、アメリカがその気になれば、サプラトリー諸島の軍事基地は、第七艦隊の海上艦艇や潜水艦からのクルージングミサイルの攻撃で一掃でき、「中国の軍事基地は岩礁にすることができる。」(日高義樹『アメリカに敗れ去る中国』徳間書店。P.11.)しかし同時に、この攻撃は大きな戦争の発火点となりかねない危惧がある。
香港は国家ではない。中国政府は香港が独立しょうとすることを恐れた。民衆の民主主義への支持はそれほどまでに大きかった。しかし、軍事力なくして国家はできない。国家的独立は軍事力で達成できるというのは、毛沢東の言葉でもある。台湾がアメリカと自国の軍隊で守れているようには、香港を守るものがないのである。香港は中国の特別行政区でしかない。現実は、民主化のデモは急速に終息しているということである。
国家を軍事力、武力ではなく、平和の裡に作るには、別の国際組織が必要である。国家の作り方については私の著作を参考にされたい。これ以外に香港が救われる道はない。拙著『国家の死滅』(ふくろう出版)のp.255-271で概要を述べた。民主化を望む人々の連帯が必要となる。
簡単に香港の8割以上の人々の希望をどのようにかなえることができるだろうか。民主化の平和なデモという手段は、多くの地球規模での連帯を模索するという道になる。様々な民主化の勢力を連帯し、新しい世界組織を作る道である。
23年間にわたり、香港は、国家としては中華人民共和国の枠の中で鄧小平の案による「一国二制度」という形で自由を謳歌できた。しかし、現在、「一国二制度」は、その効力を持たなくなってきている。必然的に、今の共産党支配の政治にくみしない自由を求める人々は、独自の政府を持つ方向になる。しかし、軍隊をもって独立戦争や、クーデターを起こすという選択肢は香港市民にはないし、あまりに中国政府の軍事力と警察力は大きい。香港のデモそして自由は、消滅したかのように見える。
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