イギリスのEU離脱から1年

英国は、欧州連合(EU)から、2020年1月31日に離脱した。2020年12月末までを離脱以降期とさだめて、スムーズな移行に努めてきた。「欧州連合」は、近代国家の枠組みを超えた新しい姿として、20世紀から21世紀にかけての新しい世界の姿を現すものであり、一面での希望と新しい人類の望ましい姿を示すと評価される事柄でもあった。しかし、一方で、試みは「失敗」したという見方も一方ではある。何のために超国家EUを作り、なぜ失敗し、今後どうなるのかということは、世界の進む道を考えるうえで不可欠な検討材料である。 まず、イギリスの離脱の原因からみておこう。そのことの中に、EUの抱える問題を見ることができる。 イギリスの離脱の原因は、 1 東欧からの移民の増加である。イギリス経済の負担となり、失業を増加させることになる。 2 社会保障、生活保護給付の問題がそれに付随する。これは財政赤字の原因にもある。 3 テロ・犯罪などの治安の問題が発生している。 4 貿易、統一市場、漁業権など、経済的利害問題がイギリス経済の負担となっている。 等がある。 さらに大きな問題としては、 1 原子力エネルギー 2 憲法問題 国家主権にかかわる問題 3 財政と国債の課題 がある。 これらの問題を少し検討しておこう。 まず第一に、東欧から高い賃金を求めて押し寄せる労働者の問題がある。最低賃金は、東欧諸国と比べて、イギリスやドイツなどのほうが格段に高い。また、高賃金を求める人々の移動で、失業率が影響を受ける。若者の職が失われる。特にポーランドからやってくる配管工問題が話題となった。移民多くは、建設、農業、介護などの産業分野では働く。国境がないので、移民ともいえない。今の日本にやってくる労働者の問題と重なる状況である。韓国、中国に始まり、今では、フィリピン、ベトナム、バングラデッシュ、インドネシア、ミャンマーなどからの労働者の問題につながる側面がある。 イギリスの場合は人々の流入がEUの加盟国、拡大方針と関連している。さらに、ドイツのメルケル政権がクロアチアからの受け入れ方針を発表して大量の人々がクロアチアからドイツに流入する事態になってきた。さらに、難民受け入れなどでアラブ地域からの移民の流入が増え、犯罪にかかわるとともに、テロも起こっている。国境によって国を守るという近代国家の機能を復活するという意図が、ポピュリズムの広がりにつながっているという経緯がある。  欧州連合の大きな問題の一つは、加盟各国の財政赤字にある。特にポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシア、スペイン、(いわゆるPIIGS)など加盟各国は大きな財政赤字を抱え、国債発行に依存している。国債の金利が高騰し、財政破綻の危機は増大している。それに対処するためにEU側で国債買受を行ってこれらの国の国家財政を救済しようとする。問題の根本解決にはつながらない。財政や社会保障政策などは、EUではなく、各国政府が決定する。国債の買い入れなどはヨーロッパ中央銀行(ECB)がおもに行い、各国の金融政策を決定することになる。そこに、EUと各国政府の軋轢が生まれる。両者の間、さらに各国間の調整などで必要な折衝が繰り返され一喜一憂することになる。いわば主権の自由がないことがここで矛盾を増幅する。いわば、欧州連合というのは中途半端な国家体制をとっているのである。特にギリシアの財政粉飾が問題となった。EUのルールではGDPの3%以内に財政赤字を抑えないと加盟国の立場を維持できないことになるので、ギリシア政府は財政赤字の粉飾を繰り返した。最初5%にのぼる財政赤字と発表したが、最終的には15%以上の財政赤字であった。  英国がEUを離脱するもう一つの根源的な要因の一つは、「国家主権」である。2005年の5月にヨーロッパ憲法を作り、EUが国家となる方向での手続きを進めようとしていた。欧州憲法条約の批准を各国に問うという過程に入っていた。しかし、フランスとオランダが国民投票の結果否決した。そして今、英国が国家主権を求めてEUから離脱した。EUでは国家を超えることに関する否定的要素が絶えず作用しているのである。  EUは超国家の国家に代わる存在であることを目指しながら、挫折してしまっていると言えなくもない。EUはあまりにも国家が構成員として顔を出しすぎている。いわば国家連合ないしは同盟という側面が強い。それでいて加盟国には国家主権がない。EU内での利害的な折衝・権力競争の様相さえないとは言えない。  EUが二つの世界大戦の悲劇を繰り返さないための一つのヨーロッパを目指す、という意図を持ちながら、ヨーロッパ軍も原子力管理のEUTRUMも実現していない。さらに、財政も社会保障も国家にゆだねられている。加盟各国の顔はあってもヨーロッパという顔は薄い。イタリアがベーシックインカムを実現するという政策を取ろうとしているが、ではEUはそのことに関与できる枠を持ち得るのだろうか。ないのである。 EUは、いわば方向性を持たない大きな集団となり、2013年のクロアチア、セルビア、マケドニアの加盟など、より拡大の方向を取りながら明確な組織の意図と目標・方向性を欠落してしまっている。委員会やコミッショナーや様々な機関が存在し、煩雑な組織形態になっている。それが弊害となっている。EU憲法もできない。ヨーロッパという統一市民社会という基礎も創設時の不手際といわれても仕方ない側面がある。明確な理論的手続きを欠いて発足させてしまっていると言ったほうが正しいのではないだろうか。今後、どのような方向を目指すべきかをEUの在り方の検討を教訓にしながら世界の再構築の青写真を作りなおさなければならないように思える。  ヨーロッパ連合は、根本からの作り直しが必要なのではないだろうか。

コメント

このブログの人気の投稿

紛争・危機

市民の声を国連に

未承認国家問題・国家を創設することの意義