グローバル市民社会の芽生え

グローバル化は、1980年代に始まるといえる。それまではすべてが国家を原理としていた。グローバル化は、グローバルエコノミーから始まり、徐々に経済をベースとした共通のシステムが構築され始めている。しかし、国家の役割は依然として強く、国際組織も国家の左右されているのが現状である。グローバル社会はまだまだできていないのである。グローバル市民社会の萌芽が見られるだけである。グローバル化はどのような分野でどれほどできているのだろうか。また、戦争廃絶や人権の共通の保護、法律のある程度の共通化など、人類社会を理想的なものに近づけることを考えるとき何が必要で何が弊害となるのかということの吟味が重要である。国家の活動の中で、覇権主義が強くなり、戦争の危機に直面しているともいえる。今後、国家を超える社会はどのように構築してゆけるのだろうか。  次のような諸点を通してグローバル市民社会の形成を見てゆく必要がある。 第一に、インフラのグローバルな構築という作業が①公的機関、②国際的な資金援助、③インフラ分野への私企業の進出などがもたらしている。それぞれの利点と欠陥を見る必要がある。 第二に、経済のグローバルなネットワークの進展で国内市場の役割が縮小すると同時に、各国の産業の優位性を見据えたグローバルな生産力構造が形成され、サプライチェーンが複雑に絡み合っている。しかも、その変化、世界の政治環境の影響は短期間で現れ、急変が起こる状況となっている。 第三に、プラットフォーマーを代表とするグローバル企業の動向が世界市場を左右している。アマゾン、ネットフリックス、グーグル、フェイスブックなどのプラットフォーマーは、個人情報を囲い込み、それをマーケティングに利用するようになってきている。会員制ともいえる囲い込みは、市場をゆがめる可能性が高く、アリババが中国政府と独占禁止法をめぐって罰金を科せられたし、グーグル、フェイスブックもアメリカ政府をはじめいくつかの国で独占禁止法の観点から訴追を受けている。半アマゾン運動の代表となっているリナ・カーン弁護士が、米連邦取引委員会(FTC)の代表となり、米議会下院の反トラスト法を管轄する委員会の委員長であるシシリン議員などの「事業分離」の動きもある。 第四に、グローバルな市民活動はその目的がばらばらで統合性に欠けていると言わざるを得ない。その統合の道が模索されなければならない。 第五に、TTP、RCEP、FTAなどの国際的な協定の動きや、世界銀行、アジア開発銀行ADBをはじめ国際的な資金提供を行う金融機関の動きは、グローバル市民社会にどのように関与してゆくかっ見る必要がある。  第六に、国家の側からのグローバルな活動は、国家利害を超えた福利にいかにつながる可能性があるかを検討し拡大してゆく必要がある。外交の枠組みにグローバル市民社会の視角が根本的な変化をもたらす動きが出てくるものと思われる。 第七に、国家の経済的覇権主義の影響の吟味が必要である。中国の一帯一路やワクチン外交、アメリカ外交の軍事同盟、ロシアの石油を中心としたエネルギー輸出と武器輸出などの覇権主義と結びついた外交政策など、グローバル市民社会の視点と絡んで、いかに乗り越えられていくかという観察が必要である。  このブログでは、上の第一点と第二点を見ておきたい。 <インフラ構築の国際的な協力> 1 水道・電気 水道も発電も国境を超え始めている。フィリピンのマニラ・ウォーターはフィリピン財閥のアヤラ傘下である。1997年に公営だった上下水道の運営を受託した。それまで政府の水道事業では、メーターの改ざんや配管の無断接続などがアンダーテーブルマネーとともに横行していた。私企業化でそれらの問題が解消した。また、漏水ロスを63%から11%に減らした。漏水防止事業でベトナムに進出してタイやインドネシアにも進出している。  シンガポールの水処理大手、ハイフラックスは電力価格の低迷のため水処理施設の収益も落ち込み、経営危機に陥っている。事業整理の申請をしている。同社は、海水の淡水化施設のトゥアスプリングを併設している。同じく発電施設の収益の悪化のため業績の足を引っ張る結果となっている。 2 人材育成  低開発国の人材育成は、インフラ構築の一つといえる。2019年春に日本の溶接技術をベトナム人に伝授するため研修センターをハノイに設立する。ベトナム政府は工業立国を目指し後押ししている。溶接技術は、自動車、船、家電などの分野に必要である。  東南アジア諸国では、国を超えた投資が活発化している。モノやサービスの拡大が外資規制を緩和させている。2015年末に発足したASEAN経済共同体(AEC)が自由化の舞台となっている。建設・通信などのインフラに関する出資比率を70%から100%に緩和している。 3 サイバー犯罪 サイバー犯罪はグローバル化している。ハッカー集団が、金融機関お発行するカード情報処理する会社のネットワークに侵入し、盗んだカード情報の利用限度額を無制限に引き上げる。このカード情報を世界中のキャッシャーと呼ばれる実行部隊に伝える。キャッシャーはこのカード情報をもとに偽造したカードを使って現金を一斉に引き出す。2013年の5月9日に約45億円を引き出している。サイバー犯罪はグローバル化しているのである。 <半導体のサプライチェーン> あらゆる産業がグローバル化して、生産、販売、下請けなどのサプライチェーンが出来上がっている。米中対立はそのサプライチェーンの囲い込みの枠となりつつある。 半導体の供給不足が年明けから顕著になっている。原因は、テキサス州の大規模停電と寒波である。さらに、ルネサスの工場火災も起こった。停電で生産停止、寒波の襲来により2月16日から操業停止が続いている。テキサス州オースティンは韓国サムスン電子の現地工場がある。生産停止による供給不足は、スマホ生産や自動車生産の減産や停止に追い込まれている。オランダNXPセミコンダクターズ、独インフィニオンテクノロジーズなどの半導体工場も二月に一斉に操業を停止している。半導体の供給不足のために、テスラやホンダも操業休止に追い込まれている。 半導体はウエハーを日本の信越化学工業とSUMCOで55%を生産している。インテルや日本のルネサスが半導体メーカーの主力である。インテルは半導体不足に直面して巨大投資を計画している。受託生産は、台湾のTSMCが55.6%を占め、韓国サムスン電子と2社で世界の市場を独占している。中国は76億ドルを投資して、SMIC、国家集積化電路基金、亦庄国投の3社共同の会社を設立し、ウエハーの生産に乗り出している。 現在では、半導体は鉄に代わって産業のコメといえる産業となってきている。スマホ、有機パネル、自動車、パソコン、テレビ、サーバーなどに欠かせない商品であり、その生産能力と質は他の産業を左右し、国家や世界の在り方を左右するものとなっている。 中国は半導体の自給率が、2015年20%であったが、25年には70%になることで自立を目指している。そこにも米中対立をはじめとする国家間の対立がある。「半導体」が国際競争の渦中にある。

コメント

このブログの人気の投稿

紛争・危機

市民の声を国連に

未承認国家問題・国家を創設することの意義