雇用の変化と格差社会

社会の変化の中で日本的雇用が変化してきている。正社員と非正規社員の差をなくするという方策が考えられる。そしてそれが様々な労働や雇用の在り方を生み出している。属人給が日本的労働を支えてきたが、それに代わるジョッブ型雇用が広がり始めている。政府の働き方改革がその後押しをする。属人給は、仕事の内容ではなく、労働者の資質と能力の可能性を重視する雇用形態である。それは学歴社会と結びついていた。従って、日本的雇用の変化は学歴社会の相対化もしくは崩壊にもつながっている。

<ジョブ型雇用>

みずほ系のアセマネOneは、昨年10月ジョブ型雇用を全社員に導入した。ジョブ型雇用は、ジョブディスクリプションを作成して職務を明示することが基礎である。雇用契約を仕事内容で規定するものである。職務に対する達成度で賃金が決まる。職務がなくなったり能力が不足したりする場合、雇用契約が解除される。ジョブ型雇用は、契約社会である欧米の雇用の形であった。 明治安田生命保険は、専門人材の報酬を役員相当にするという人事制度を昨年新設した。ITや資産運用など10分野の専門人材として「フェロー」と「シニア・フェロー」を任命する。シニア・フェローは年収3000万円程度の水準になる。給与体系全体の変化ともいえる。年功序列で昇進するという社会の在り方に違った要素が加わっていると言える。

<正規雇用と非正規雇用>

 ヤマト運輸では、社長の長尾博氏は、2018年5月、「働き方改革を進めて全員経営を実現する」と組合に対して応じた。政府は、正社員と非正規社員の待遇格差を是正する同一労働同一賃金を産業界に求めてきた。一つの労働の在り方の変化である。非正規労働が人手不足を支える構図は、日本郵政にも当てはまる。この政策は、非正規の待遇をよくするというよりも、正規労働の崩壊といったほうが適切かもしれない。

<中堅層> 日本の強みは中堅層の働きにある。ブルーカラーの技能上位半分の層は労働環境全体の重要な役割である。中堅層の重要な役割は、これまで流通産業や第三次産業にも当てはまる。技術者の場合、優れた中堅層は、それまでの操作経験から意見を言う。日本では労働協議制が普及していて、経営、生産につき従業員代表が熱心に発言している。それが日本の底力になっている。雇用を左右する投資もそれを経て決まる。正社員制度が崩れていく中で、これらの中堅層も消えていく危惧はないだろうか。ジョブ型雇用ではこのようなシステムは消えてゆくのではないだろうか。経営者側と労働者側が分断していくような社会に置き換わっていくのではないだろうか。"

<働き方改革>

安倍政権下で働き方改革が模索された。①時間外労働の上限規制、②高度プロフェッショナル制度、③副業の推進、④人材育成、などが唱えられた。①は、残業規制である。年720時間を残業の上限とする。②は、脱時間給制度である。年収が1075万円以上の層と人材を対象としている。金融ディーラーやコンサルタントなどの専門職が労働時間規制に縛られないで働けるようにするものである。また、同一労働同一賃金で非正規の賃金や手当を考慮し,休暇や研修も正規雇用と同様の待遇を受けられるようにするのが狙いである。労働基準法など8本の労働関係の法律を一括改正するものである。" 働き方改革は、これまでの日本的な労働観が仕事に責任感と自己実現を重視する日本的な考え方が退き、これに対して労働を義務・必要悪としてとらえる考え方のもとに改革を進めるということが、背景にあると言えるのではないだろうか。仕事に責任感と生きがいを持つ日本的労働観が消えてゆく。勤務時間や義務が優先し、仕事に対する責任と判断が否定される傾向がある。自由な労働という枠が消えるような議論となっていくのではならないだろうか。規制や枠をはめ、特別な人を高度プロフェッショナルと規定するという変革である。このような働き方を日本の制度にするよりも、政府は手を加えないで、社会に任せておくのがいいように思える。労働そのものの中に裁量余地があればいいのではないだろうか。

<貧困層の拡大> 世界銀行は1日当たりの所得が、5.5ドル以下の人を貧困層と定義している。その数はコロナで増加している。950万から1260万人の増加である。観光に依存する国は景気の悪化度合いが大きい。タイは、8.3%、フィジーは21.7%フィリピンも6.9%のマイナスである。世界の貧困層の拡大は、コロナ以前にすでに格差社会が世界的なものとなる中でも拡大してきていた。それが1980年代以降の顕著な世界規模の変化である。社会の金融化やIT化やAI化の中で、収奪構造が大きくなり、格差がどう服されたといえる。格差拡大は今の世界の経済体制に根差していると言える。 <独立事業者という形態> 料理の宅配などで働く個人事業主が「労働者」としての権利を主張して業務委託元の企業と争う例が相次いでいる。「配達パートナーは個人事業主」だとすると雇用関係はないということになる。セブンイレブン・ジャパンやファミリーマートのフランチャイズ加盟店主の場合も労働者性が問われる裁判が起こっている。独立事業主という形が一つの新しい労働の形になっていくこともあり得そうである。 自由な働き方の模索の中でギグワークと呼ばれる働き方も増えている。細切れで単発的な働き方である。"  

労働の世界に大きな変化が訪れている。それは日本的な資本主義の形の変更である。日本の良さと強みと美点を労働の中に見直すべき時である。

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