医療費増大と社会保障費財政

75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を2割に引き上げるという法案が国会に提出された。年収200万以上の人が対象で、その数は370万人で全体の23%にあたる。3割負担の人が130万人(7%)、1割負担の人は1315万人(70%)になる。2020年度後期高齢者の医療費負担は18.1兆円で医療費全体の4割を占める。医療費は現役世代の健康保険料から4割、後期高齢者の保険料で1割、5割が税金からの補填で賄っている。現役世代の医療費負担は6兆8千億円で年1600億円ずつ増えている。窓口負担の増額で、現役世代が拠出する額の伸びを年880億円抑えられるという試算である。

日本の福祉は1973年に始まっている。田中角栄が福祉元年を唱え、その時、高齢者の医療費を無料にした。「病院のサロン化」を招いた。そのこともあって、医療費の窓口負担が行われている。

日本は年齢によって負担割合が異なる。日本と同じ保険方式のドイツやフランスには年齢による負担割合の差はない。社会保険の中で医療費の負担は大きい。社会保険と税金を合わせた所得に対する比率である。国民負担率が国民お経済生活状況を考えるうえで重要な指標である。国民負担率は、ドイツは54.1%、フランスが68.2%である。日本は44.6%になっている。そしてそれ以外で国民の生活に大きな影響をお当たるのが消費税である。消費税率はドイツが19%、フランスが20%である。この点では、日本人はドイツフランスより恵まれていると言えそうである。

日本の根本的な問題は、保険制度の維持である。国民皆保険による医療の存続がむつかしくなってきている。国民医療費は、1990年に20兆円を超え、2015年は41.5兆円、2025年には54兆円に達する見込みである。医療費の高騰の原因は、第一に高齢者の医療費の増大が続いていること、第二に医療が高度化し、薬剤などが高額になっていることなどがある。また、治療費の高騰もある。白血病の薬が発明された。一回の投与の価格が一億円に近い額になりそうである。医療費のうち2割が薬代になっている。厚生労働省は薬価の改定で患者の購入する医療用医薬品の公定価格を見直し、医療費抑制につなげようとしている。

もう一つ社会保障と医療にとって大きな変化がある。病院経営の問題である。経営悪化で病院数が減り続けている。2000年に1万を超えていた病院数は、2010年には8700、2020年に8255になっている。ちなみに医療施設は、17万9303施設である。医療の他の施設との連携が進められている。終末期の末期がん患者が自宅で再起を迎えるために病院を去る。訪問介護会社が患者に寄り添う。治療後の介護が目的の療養病床を2012年度以降廃止している。民間の介護施設を利用するように勧められている。

日本では株式会社は病院経営に参入できない。しかし、病院経営にも企業の力が今後必要となる。規制緩和が求められる。介護の分野では、株式会社の参入ができている。電力会社、ベネッセ、ワタミなどが介護に進出した。世界的な介護の広がりが、今後、必要になり、病院も規制緩和が必要になってくる。介護には今後250万人の介護従事者が必要だと言われる。今後の課題であるが、介護従事者を外国人材に頼るということだけでは解決にならないと思われる。

 医療情報に関して、クラウドコンピューティングを使い社会全体で活用し、健康管理アプリを作成、利用する動きがある。医療に効率化につなげようとするものである。健康保険組合は予防推進につなげようとしている。医療・健康データは医療費の圧縮に有効な社会資産である。また、SNSを活用して生活習慣病の患者やその予備軍の管理に有効性があるとみられる。健康管理アプリは、NTTドコモ、オムロン、タニタ、NEC,富士通、パナソニックなどが乗り出している。アメリカでもウォルマートやインテルも非営利組織を設立して健康管理ソフトの開発に乗り出している。

 財政面から見るとき社会保障費は巨大になっている。2018年度予算で約33兆円である。予算総額の3分の1にのぼる。社会保障費を抑えることが政府の課題となっている。財政健全化の観点から、2016年~18年で、1.5兆円の削減が目標とされた。特に後期高齢者の数の同化が医療費を膨らます原因となる。

 介護費用ももう一つの課題である。2010年度の介護認定を受けた人は506万人である。そのうち要介護3以上が193万人で4割を占める。介護保険から払う給付費は7兆2536億円となっている。2025年には19兆8000億円と推定されている。2010年から2025年の15年間で2.7倍である。介護保険料も上がり続けており、隠れた国民の負担である。特別養護老人ホームや有料老人ホームでは入所者3人に対して職員一人を配置する取り決めになっている。

長野県・御代田町は元気な高齢者を増やす取り組みを進めている。「はつらつサポーター」を駆使し、地域のNPOやボランティア、企業の力を活用して高齢者を支えている。要介護の認定率を下げる効果をあげている。

オバマケアは、国民皆保険からは、はるかに遠い。国民の保険の加入を義務化に過ぎない。その保険は公的なものではなく、普通の保険会社に加入するというものなので、保険料の高騰をもたらしたに過ぎない。国民負担率は低く抑えられても、実質的に保険料負担に国民は苦しむ。医療を保険会社が支配する構造になっており、医者や病院に対する保険会社の統制が強くなっている。アメリカの医療がよくなっているとはいいがたい。

いい国の理想、社会保険制度を含めた国の状況の目指す方向としては、国民皆保険を維持することは重要だと思われる。さらに、政策努力を通じて、国民負担率を低くし30%、医療費の窓口負担を一律1割、消費税は廃止という状況になれば日本お国民はかなり裕福な生活状況になると言える。これを政策目標にする政党が出てほしいものである。

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